
通信が切れる前提で考えるという逆転
火災現場では通信が成立しない、という話は前回でかなり徹底的に叩いた。ここまで否定すると、普通は行き詰まる。しかし実際の現場では、通信が切れること自体は珍しくない。問題は「切れること」ではなく、「切れた瞬間に何もできなくなる設計」にある。
つまり発想を逆にする必要がある。
通信はできたらラッキー。基本は自律。
これが③制御・自律編の出発点だ。
遠隔操作ロボットという幻想
多くの人が思い描く救助ロボットは、ゲームのラジコンの延長にある。カメラ映像を見ながら操縦し、危険な場所を人間の代わりに動き回る存在だ。
しかし火災現場では、
- 視界は煙で数十cm
- 映像は白飛び・黒潰れ
- 通信は秒単位で途切れる
この条件で遠隔操作は成立しない。操作できないロボットは、ただの高価な置物になる。
ここで重要なのは「人が操作しないと価値がない」という思い込みを捨てることだ。
自律とはAIが賢いという意味ではない
「自律」と聞くと、AIが状況を理解して判断する姿を想像しがちだが、ここで言う自律はもっと地味でいい。
- 決められた条件で
- 決められた行動を
- 淡々と繰り返す
むしろ賢くない方が壊れにくい。
火災現場では誤認識や誤判断が即故障につながる。だからこそ、制御は単純であるほど強い。
ルンバに近い救援ロボット
自律ロボットの参考例として、家庭用掃除ロボットは非常に示唆的だ。
- 正確な地図は持たない
- ぶつかって覚える
- 壁沿いに移動する
- バッテリーが減れば戻る
これを火災現場向けに読み替えると、
- 壁・床・天井を基準に行動
- 温度・傾き・衝撃だけを判断材料にする
- 危険域に入ったら後退
という、かなり原始的だが成立する制御になる。
「帰ってこなくていい」設計
ここで一度、禁断の前提を置いてみる。
ロボットは戻ってこなくてもいい。
消耗品として割り切ると、設計の自由度が一気に上がる。
- 高価な通信装置はいらない
- 高精度センサーはいらない
- 無理な撤退制御もいらない
代わりに、
- 何分生き残ったか
- どこまで到達したか
- 何を検知してきたか
これだけ残せれば、任務としては成功と定義できる。
記録装置という役割
通信できないなら、記録して持ち帰るしかない。
- 耐熱メモリ
- シンプルなログ(温度・時間・衝撃)
- 回収前提のデータカプセル
これは宇宙探査やブラックボックスに近い思想だ。リアルタイムで知ることを諦める代わりに、確実に情報を残す。
人間の代わりではなく、先行センサー
このロボットは、人を助けに行く主役ではない。
- 人が入る前に
- 何が起きているかを
- 少しだけ先に知る
そのための「動くセンサー」だ。
これなら
- 通信が切れても意味がある
- 途中で壊れても無駄ではない
- 操作できなくても失敗ではない
という、現実的な価値が生まれる。
夢を小さくすると、形が見えてくる
遠隔操作も、完全自律AIも、一度脇に置く。
代わりに、
- 単純なルール
- 単純な役割
- 単純な成功条件
これだけを満たす装置として考えると、このロボットは「作れない妄想」から「検討できる装置」に変わる。
次は、
- 何分生き残れば価値があるのか
- 成功と失敗をどう定義するか
という、少し残酷だが避けられない話に進む。
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