④火災現場で通信が切れても仕事をするロボットという発想

電波を失った消防救助ロボット

通信が切れる前提で考えるという逆転

火災現場では通信が成立しない、という話は前回でかなり徹底的に叩いた。ここまで否定すると、普通は行き詰まる。しかし実際の現場では、通信が切れること自体は珍しくない。問題は「切れること」ではなく、「切れた瞬間に何もできなくなる設計」にある。

つまり発想を逆にする必要がある。

通信はできたらラッキー。基本は自律。

これが③制御・自律編の出発点だ。


遠隔操作ロボットという幻想

多くの人が思い描く救助ロボットは、ゲームのラジコンの延長にある。カメラ映像を見ながら操縦し、危険な場所を人間の代わりに動き回る存在だ。

しかし火災現場では、

  • 視界は煙で数十cm
  • 映像は白飛び・黒潰れ
  • 通信は秒単位で途切れる

この条件で遠隔操作は成立しない。操作できないロボットは、ただの高価な置物になる。

ここで重要なのは「人が操作しないと価値がない」という思い込みを捨てることだ。


自律とはAIが賢いという意味ではない

「自律」と聞くと、AIが状況を理解して判断する姿を想像しがちだが、ここで言う自律はもっと地味でいい。

  • 決められた条件で
  • 決められた行動を
  • 淡々と繰り返す

むしろ賢くない方が壊れにくい

火災現場では誤認識や誤判断が即故障につながる。だからこそ、制御は単純であるほど強い。


ルンバに近い救援ロボット

自律ロボットの参考例として、家庭用掃除ロボットは非常に示唆的だ。

  • 正確な地図は持たない
  • ぶつかって覚える
  • 壁沿いに移動する
  • バッテリーが減れば戻る

これを火災現場向けに読み替えると、

  • 壁・床・天井を基準に行動
  • 温度・傾き・衝撃だけを判断材料にする
  • 危険域に入ったら後退

という、かなり原始的だが成立する制御になる。


「帰ってこなくていい」設計

ここで一度、禁断の前提を置いてみる。

ロボットは戻ってこなくてもいい。

消耗品として割り切ると、設計の自由度が一気に上がる。

  • 高価な通信装置はいらない
  • 高精度センサーはいらない
  • 無理な撤退制御もいらない

代わりに、

  • 何分生き残ったか
  • どこまで到達したか
  • 何を検知してきたか

これだけ残せれば、任務としては成功と定義できる。


記録装置という役割

通信できないなら、記録して持ち帰るしかない。

  • 耐熱メモリ
  • シンプルなログ(温度・時間・衝撃)
  • 回収前提のデータカプセル

これは宇宙探査やブラックボックスに近い思想だ。リアルタイムで知ることを諦める代わりに、確実に情報を残す。


人間の代わりではなく、先行センサー

このロボットは、人を助けに行く主役ではない。

  • 人が入る前に
  • 何が起きているかを
  • 少しだけ先に知る

そのための「動くセンサー」だ。

これなら

  • 通信が切れても意味がある
  • 途中で壊れても無駄ではない
  • 操作できなくても失敗ではない

という、現実的な価値が生まれる。


夢を小さくすると、形が見えてくる

遠隔操作も、完全自律AIも、一度脇に置く。

代わりに、

  • 単純なルール
  • 単純な役割
  • 単純な成功条件

これだけを満たす装置として考えると、このロボットは「作れない妄想」から「検討できる装置」に変わる。

次は、

  • 何分生き残れば価値があるのか
  • 成功と失敗をどう定義するか

という、少し残酷だが避けられない話に進む。

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