②1000℃環境でモーターを回すには、どこを諦めるべきか

火災現場を行く救助ロボット

位置づけ(この記事について)

この記事は、火災現場で動き続ける救援ロボットを考える中で浮かび上がった、モーター構造だけに絞った技術メモです。

結論を出す記事ではありません。 「理屈の上ではできそうだが、現実的にどこを捨てないと成立しないか」を整理するための記録です。


なぜ通常のモーターは1000℃に耐えられないのか

一般的な電動モーターは、見た目以上に“熱に弱い要素”の集合体です。

  • 永久磁石(高温で減磁)
  • 樹脂やワニスによるコイル絶縁
  • 接着剤・樹脂スペーサー
  • ベアリングの潤滑油

これらの多くは、200〜300℃程度で限界を迎えます。 1000℃という条件では、構造そのものを作り直す必要があります。


磁石を捨てる:リラクタンスモーターという選択

高温対応を考えたとき、最初に捨てるべきなのが永久磁石です。

候補として浮かぶのが、リラクタンスモーター。 磁石を使わず、鉄心の磁気抵抗(リラクタンス)の差を利用して回転トルクを得る方式です。

利点:

  • 磁石が不要
  • 理論上、高温耐性を持たせやすい

欠点:

  • トルクが小さい
  • 制御が難しい
  • 効率が低い

ここで最初の割り切りが必要になります。

高効率・高出力は諦める


コイル絶縁という最大の難所

磁石を捨てても、次に立ちはだかるのがコイルの絶縁です。

一般的なエナメル線は高温で劣化・炭化します。 そこで考えられるのが、

  • セラミック絶縁
  • 鉱物系絶縁材
  • 無機繊維

実際、ガラス繊維やアルミナ繊維は数百〜1000℃級に耐えます。 ただし、

  • 硬く、割れやすい
  • 巻線加工が困難
  • 振動・遠心力に弱い

という問題が付きまといます。

「巻ける」ことと「耐熱」はトレードオフです。


熱膨張差:鉄心とコイルは仲が悪い

高温になると、材料ごとに膨張率が異なります。

  • 鉄心
  • 導体(金属)
  • 絶縁材(セラミック)

これらを密着させると、

  • 割れ
  • 剥離
  • 短絡

が起こりやすくなります。

対策として考えられるのが、

  • 鉄心とコイルの間に意図的な隙間を設ける
  • コイルを中空・メッシュ構造にする

しかしこれは、磁気効率をさらに下げます。

ここでも割り切りが必要です。

効率を捨てて、壊れにくさを取る


低回転・低出力という現実解

これまでの割り切りを全て受け入れると、 見えてくる姿があります。

  • 高速回転しない
  • トルクは最小限
  • 精密制御しない

つまり、

「ゆっくり、確実に動くだけのモーター」

救援ロボット用途では、

  • 速さよりも
  • 生存時間
  • 故障しないこと

が価値になります。

ここで初めて、低性能が意味を持ちます。


それでも残る問題

ここまで割り切っても、問題は残ります。

  • 軸受(ベアリング)をどうするか
  • 潤滑をどうするか
  • 発電・給電方式

モーター単体ではなく、 機械全体の設計問題に発展します。


まとめ(結論を出さない結論)

1000℃環境でモーターを回すことは、 理論上は完全に不可能ではありません。

しかし成立させるには、

  • 効率を捨て
  • 出力を捨て
  • 回転数を捨て
  • 制御精度を捨てる

必要があります。

残るのは、 「壊れにくいが役割は限定された回転体」

それでも意味があるのかどうか。 それは、ロボット全体の仕様次第です。

このメモは、その判断材料として残しておきます。

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